江東区で障害年金の申請サポートを行っている「心と福祉とお金に強い社労士」西川です。
今回は「障害年金を受給していると老齢年金の繰下げができなくなる」制度について、わかりやすく解説します。
老齢年金の基本:繰上げ・繰下げとは?
私たちが原則65歳から受給できる老齢年金には、以下の2つがあります。
老齢基礎年金 | 国民全員が対象 |
老齢厚生年金 | 会社員・公務員などが対象 |
老齢年金の受給額(令和7年度の例)
老齢年金の受給額をイメージするため、標準的な受給金額を示します。
老齢基礎年金の満額は令和7年度の例(昭和31年4月2日以後生まれ)では次のようになります。
月額 | 年額 |
69,308円 | 年額831,696円 |
厚生労働省提示の標準的な老齢厚生年金額(夫婦二人、老齢基礎年金含む)は次のようになります。
月額 | 年額 |
232,784円 | 年額2,793,408円 |
上記のケースで厚生年金額のみ(上記から夫婦2人分の老齢基礎年金を差し引く)だと次の額になります。
月額 | 年額 |
94,168円 | 年額1,130,016円 |
老齢年金の繰上げ受給(60~64歳)
老齢年金は、60歳から1か月単位で前倒しして受給できます。これを「繰上げ受給」と呼びます。
早く年金を受け取ることができる分、受給できる年金額が下がります。
年齢 | 減額率 |
64歳から受給 | -4.8% |
63歳から受給 | -9.6% |
62歳から受給 | -14.4% |
61歳から受給 | -19.2% |
60歳から受給 | -24.0% |
老齢年金の繰下げ受給(66~75歳)
逆に、年金の受給開始を最長75歳まで遅らせることも可能です。これを「繰下げ受給」と呼びます。
年齢 | 減額率 |
70歳から受給 | +42.0% |
75歳から受給 | +84.0% |
障害年金を受給していると、老齢年金の繰下げはできない?
障害年金を受給している方は、原則、老齢年金の繰下げ受給ができません。
なぜなら、年金制度には「一人一年金の原則」があるからです。
つまり、65歳時点で「障害年金を継続するか」「老齢年金に切り替えるか」を選ばなければならないのです。
なぜ繰下げができないのか?
もし、障害年金を65歳以降も受給しながら、老齢年金を75歳まで繰下げられると、65~74歳の間は非課税の障害年金を受給し、75歳以降は増額された老齢年金を受け取ることができてしまいます。
それは他の年金受給者との「公平性」に欠けるため、制度上認められていません。
障害厚生年金3級の方はどうするのが有利?
障害厚生年金3級を受給している方は、障害基礎年金は受給できません(基礎年金は1級または2級のみ対象)。
そのため、65歳以降は通常、
障害厚生年金3級 < 老齢基礎年金+老齢厚生年金
となるケースが多く、老齢年金に切り替えたほうが年金額が増える可能性が高いです。
繰下げできる例外ケースとは?
例外的に、以下のケースでは老齢年金の繰下げが可能です。
障害基礎年金のみを受給している場合
- 老齢厚生年金を繰り下げることができます(老齢基礎年金の繰下げは不可)。
障害年金を失権した場合
- 症状の改善等により、65歳時点で障害年金の受給資格を失った場合は、老齢基礎年金・老齢厚生年金ともに繰下げが可能になります。
障害年金受給で繰下げできないのは本当にデメリット?
たしかに、繰下げができないのは制度上の「制限」ではあります。
ですが、現実的には繰下げ受給をしている人は少数派です。
令和5年度の厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業年報」によると、
繰上げ受給した人の割合 | 24.5% |
繰下げ受給した人の割合 | 2.2% |
つまり、約98%の方が繰下げをしていません。
また、繰下げによる年金増額は、課税や医療費(高額療養費の自己負担限度額)に影響することもあります。
さらに、障害年金は非課税であるという大きなメリットもあります。
【まとめ】65歳を迎える前に、自分にとって有利な選択を
障害年金を受給していると、原則として老齢年金の繰下げはできません。
ですが、65歳までは障害年金を受給したほうが有利なことが多く、現実的なデメリットは小さいといえるでしょう。
ただし、65歳直前で障害年金の申請を考えている方は、繰下げの可否や今後のライフプランとの兼ね合いを慎重に検討することをおすすめします。
年金制度は複雑だからこそ、専門家に相談しながら、損のない選択をしていきましょう。